人獣共通感染症 関連資料 |
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●トキソプラズマ症 |
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トキソプラズマ症は、トキソプラズマ原虫の感染によっておこる動物由来感染症です。
人を含めた多くの哺乳類や鳥類に感染することが知られており、
日本国内では成人の10%前後が感染しているという報告もあります。
感染した場合、無症状~軽度のインフルエンザ様の症状を呈した後に回復することが
ほとんどですが、免疫不全状態の人では、症状が再発したり、重症化することがあります。
そのため、後天性免疫不全症候群(エイズ)や免疫抑制剤投与中の患者における
主要な疾病の一つになっています。
また、めん羊、山羊、豚、いのししのトキソプラズマ病は、
家畜伝染病予防法により届出伝染病に指定されています。
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1.病原体
トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)は、ネコ科動物を終宿主とする寄生性単細胞生物で、
宿主となる動物種や感染ステージ、免疫状態等により、
①増殖型(タキゾイト)
②シスト
③腸管型(オーシスト) の異なる3つの形態を取ります。
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2.生活環
胞子形成オーシストが体内に入ると、オーシストから出てきた原虫は増殖型原虫となり、
さまざまな細胞内で増殖します。
感染後数週間たつと、増殖型原虫は宿主側の免疫によって減数し、シストが形成されます。
シストは厚い壁に包まれており、脳や筋肉中で長期間生存します。
シストが別の動物に食べられると、シストから出てきた原虫が増えて、
新たな宿主の体内でシストを作るということが繰り返されます。
ネコ科の動物が初めて感染した場合のみ、原虫は有性生殖を行い、
糞便中にオーシストを排出します。オーシストは環境中で数日をかけて発育し、
感染力を持つ胞子形成オーシストになります。
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3.症状
ヒトを含む多くの動物が不顕性感染ですが、幼令や免疫機能が低下している個体では、
重篤な症状が出ることがあります。
発症した場合、急性期には、リンパ節の腫脹、高熱、悪寒等の風邪様症状に始まり、
感染箇所によって髄膜脳炎、肝炎、肺炎、心筋炎などを呈し、多種多様な病態を示します。
脳炎になると、半身の脱力、言語障害、頭痛、錯乱、痙攣発作などの神経症状が現れます。
ヒトの先天性トキソプラズマ症は、母体が妊娠の6ヶ月前~妊娠中に
初めてトキソプラズマに感染した場合、まれに胎盤を経由して胎児が感染し、発症するものです。
症状は、脈絡網膜炎(失明に至る眼の炎症)、肝臓や脾臓の腫大、黄疸、痙攣、
水頭症、頭蓋内石灰化、精神遅滞、死流産等です。
胎児の発症率は、母体の感染が妊娠後期になるにつれて高くなります。
妊娠初期では、胎児へ伝染するリスクは低くなりますが、
万一感染した場合の症状は重くなります。
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4.予防
オーシスト(放置されたネコの糞便や土壌等)と、
シスト(主に豚生肉及びそれを扱った手指、まな板、包丁等調理器具)を
口から摂取することが主な感染源です。
予防対策としては以下のことが推奨されています。
特に免疫力が弱っている人、妊娠前あるいは妊娠の可能性がある人は十分注意が必要です。
(1) 肉(内臓を含む)はよく火を通す。
(2) 果物や野菜は食べる前によく洗う。皮をむく。
(3)生肉や洗っていない野菜に触れた手、まな板、食器、調理器具等はよく洗う。
(肉用のまな板は他のものと分ける)
(4)ガーデニング等、土に触れる作業には使い捨て手袋を着用し、
作業後はせっけんと温水で手をよく洗う。
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5.猫を飼っている方へ
外に出るネコの場合は、ネズミや鳥を捕食することでシストを取り込んだり、
オーシストを含む土壌等を舐めてしまうことにより、感染することがあります。
ネコは室内で飼い、市販のキャットフード(缶詰、ドライフード等)を与え、
加熱不十分な肉は与えないようにしましょう。
また、糞便中に排出されたオーシストが感染力を持つには1~5日かかりますので、
トイレの糞便はすぐに片づけるようにしましょう。
(妊娠中はなるべく他の人にやってもらうようにするか、使い捨て手袋を装着する。)
ネコがオーシストを排出する期間は、生涯の内一回限り(初めて感染した後の数週間)
に限られます。トキソプラズマ症の予防という観点からは、
妊娠しても現在飼っているネコを手放したり、隔離したりする必要はありません。
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